洋15-129

「愛と哀しみのボレロ」
    

                  2015(平成27)年11月3日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・製作・脚本:クロード・ルルーシュ
ボリス・イトビッチ(ボリショイ・バレエ団選考委員)
セルゲイ・イトビッチ(ボリスの息子、ボリショイ・バレエ団ダンサー)
カール・クレイマー(ドイツ人の音楽家、軍楽隊長、指揮者)/ダニエル・オルブリフスキ
シモン・メイヤー(キャバレー“フォリー・ベルジェール”のピアニスト)
ロベール・プラ(弁護士、作家)
スーザン・グレン(ジャックの妻、歌手)
サラ・グレン(ジャックの娘、歌手)
ジャック・グレン(ジャズミュージシャン)
ジェイソン・グレン(サラの兄、サラのマネージャー、プロデューサー)
アンヌ・メイヤー(シモンの妻、キャバレー“フォリー・ベルジェール”のバイオリニスト、戦後はアコーディオン奏者)/ニコール・ガルシア
エブリーヌ(シャンソン歌手)
エディット(元ショウガールのニュースキャスター)
マグダ・クレーマー(カールの妻)/マーシャ・メリル
パトリック・プラ(ロベールの息子、歌手)/マニュエル・ジェラン
タチアナ(ボリスの妻、セルゲイの母、バレエ学校の教師)
タニア・イトビッチ(女性のバレエダンサー、セルゲイの娘)           
ジャック/ジャック・ヴィルレ
フランシス/フランシス・ユステール
リシャール/リシャール・ボーランジェ
1981年・フランス映画・185分
配給/コピアポア・フィルム

<1981年の名作がデジタル・リマスター版で!>
 若い頃に観た『シェルブールの雨傘』(64年)や『ロシュフォールの恋人たち』(67年)、そして『男と女』(66年)や『ある愛の詩』(70年)は今なお強く印象に残る映画だが、同時にその音楽も大ヒットし、今なお強く耳に残っている。それを担当したのが、前の2作はミシェル・ルグラン、後の2作はフランシス・レイだ。そして、その2人が奇跡のコラボレーションを組み、クロード・ルルーシュ監督が完成させたのが、185分の大作である本作。残念ながら、公開当時弁護士として最も忙しい時期を過ごしていた私は本作を見逃していた。もちろん、そのタイトルだけは当時から記憶していたが、その内容は全く知らなかった。
 他方、フランスのモーリス・ラヴェルが1928年に作曲した『ボレロ』は、同一のリズムが刻まれる中で2種類のメロディがくり返され、次第に盛り上がってくる有名な曲。そして、チャイコフスキーの『白鳥の湖』等とならんで、バレエ音楽として有名な曲だが、モーリス・ベジャールによる本作の『ボレロ』の振付けは日本ではじめてパフォーマンスとしての知的財産権を獲得しており、許可なくこの振付で踊ることは許されないらしい。そんな名作が今、デジタル・リマスター版で!

<1930年代後半、ナチス・ドイツの戦争は?>
 第1次世界大戦が終了したのが1918年。そして、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻したのが1939年9月1日だ。その間はわずか21年しかない。第1次世界大戦の敗戦国ドイツでヒトラー率いるナチス・ドイツが急速に力をつけ、合法的な選挙を通じて国民に受け入れられ、権力を握ったのは一体なぜ?それは多くの映画のテーマとして取り上げられている。
 ナチス・ドイツのポーランド侵攻で始まったヨーロッパの戦争は、イギリスとフランスによるドイツへの宣戦布告にもかかわらず、当初はナチス・ドイツが圧勝。フランスの占領だけではなく、イギリス本土まで進攻する勢いを見せたが、日本の敗戦より少し前の1945年5月には、そのナチス・ドイツも崩壊した。そして、連合軍のノルマンディ上陸は『史上最大の作戦』(62年)が、ヒトラーの自殺は『ヒトラー~最期の12日間~』(04年)(『シネマルーム8』292頁参照)が描いているとおりだ。また、その間、「アウシュヴィッツ」を中心にナチス・ドイツが行ったユダヤ人に対するホロコーストは、多くの映画が描いている。ちなみに、戦後70年の今年は、『シネマルーム36』に、①『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(15年)、②『顔のないヒトラーたち』(14年)、③『ふたつの名前を持つ少年』(13年)、④『あの日のように抱きしめて』(14年)の4本を収録した。

<なるほど、実在のこの4人がモデル!>
 本作の邦題は『愛と哀しみのボレロ』だが、原題は『Les Uns et les Autres』。これは、「時代をともにした、人それぞれの人生」という意味らしい。つまり、ヨーロッパで大変な規模の戦争が始まった1930年代後半から、本作がつくられた1981年までの、ほぼ40年間を生きた4人の主人公、4つの家族をモデルとして、その波乱の人生を描くものだ。
 映画は冒頭、(父親の)ボリス・イトビッチ(ジョルジュ・ドン)が踊るボレロのシーンから始まり、ラスト15分間は再び1981年にエッフェル塔前のパリ・トロカデロ広場で行われたユニセフのチャリティ・コンサートで、(息子の)セルゲイ・イトビッチ(ジョルジュ・ドン)が踊るボレロのシーンで終わる。このセルゲイ・イトビッチのモデルが、実在のソ連生まれのバレエダンサーとして有名なルドルフ・ヌレエフだ。
 本作のモデルとなった他の3人は、①ヒトラーに認められパリで軍楽隊長を務め、戦後名指揮者となった音楽家のカール・クレイマー(ダニエル・オルブリフスキ)のモデルがヘルベルト・フォン・カラヤン、②アメリカのニューヨークでジャズの楽団を率いるジャズミュージシャンのジャック・グレン(ジェームズ・カーン)のモデルが楽団のグレン・ミラー、③あまりにもややこしすぎて私には正確な人物像が特定できない某女性のモデルが、フランスの歌手エディット・ピアフだ。さて、動乱の時代を生きた、彼らや彼らの家族たちの40年間の波乱に満ちた人生とは・・・?

<パリでは、キャバレーが物語の中心に>
 本作の最初のストーリーの舞台は戦争前のパリ。そして、パリでは、キャバレー“フォリー・ベルジェール”が物語の中心の舞台となる。
 ナチスによるパリの占領前。ここでは、ピアノを弾くシモン・メイヤー(ローベル・オッセン)とバイオリンを弾くアンヌ・メイヤー(ニコール・ガルシア)が、幸せな結婚式にゴールインする姿が描かれる。しかし、その後のナチス・ドイツによるユダヤ人へのホロコーストによって、シモンはガス室で死亡してしまうことに。他方、アンヌは生き残り、戦後はアコーディオン奏者としてキャバレーに戻ってくるが、あの列車での護送の中、わずかの僥倖を頼りに駅に置き去りにした一人息子は・・・?
 その息子は後に成長して弁護士・作家となるロベール・プラ(ロベール・オッセン)だが、サラと結婚した後、後に歌手になる彼の一人息子パトリック・プラ(マニュエル・ジェラン)を含めて、彼らに訪れる数奇な運命とは・・・?

<ロシアではスターリングラード攻防戦や亡命事件が!>
 ヒトラー率いるナチス・ドイツとスターリン率いるソ連との戦争では、ジュード・ロウが狙撃兵を演じた『スターリングラード』(01年)(『シネマルーム1』8頁参照)が有名。しかして、本作冒頭で選考委員をしていたボリショイ・バレエ団のボリス・イトビッチは、そのスターリングラードの攻防戦で戦死することに。
 しかし、ボリスがその選考会で落ちてしまったタチアナ(リタ・ポールブールド)と恋に落ち、一子セルゲイ・イトビッチが生まれると、やはりカエルの子はカエル。セルゲイ・イトビッチもボリショイ・バレエ団のダンサーとして急成長し世界的ダンサーに。その彼が1960年に西側に亡命するシークエンスは、1950年代の「東西冷戦」の姿を象徴するものとして、強く印象に残る。

<ヒトラーが認めた音楽家の数奇な運命は?>
 ヘルベルト・フォン・カラヤンはフルトヴェングラーの後継者ともいうべきドイツ最高の指揮者とされ、私の大学時代にグラモフォンから出されていた彼のレコードは値段も高かった。ちなみに、友人たちと聴き比べをしたベートーヴェンの交響曲第5番「運命」では、カラヤン派とブルーノ・ワルター派に分かれたが、私は断然ワルター派だった。
 本作では若きピアニストとしてヒトラーの前でピアノを弾き、絶賛されたカール・クレイマーが、ナチスの時代に軍楽隊長としてパリに乗り込む面白いシーンが登場する。身近に接するパリの人々は彼にとってはお友達のようなもので、必ずしもナチス・ドイツによるパリの「占領支配」という感覚ではなかったようだが、その認識の是非は?そんなカールは戦後指揮者としてアメリカで初公演を行ったとき、前売り券は完売なのに当日の観客は2人だけという奇妙な情景に出くわすことに。これは、ナチス・ドイツに協力したカールへの抗議をこめてアメリカ在住のユダヤ人がチケットを買占め、公演を妨害したためだが、そんな体験を経たカールのその後の成長と人生は・・・?

<アメリカの孤立主義は?この家族は?>
 他方、ヨーロッパで戦乱が拡大する中、アメリカは一体どうしていたの?アメリカ合衆国の外交政策は、初代大統領のジョージ・ワシントンの時から孤立主義。そのため、ヨーロッパで戦火が拡大する中でもアメリカはその原則を貫いていたが、その是非については論争が続いていた。それを転換する契機になったのは、1941年12月7日(米国時間)に起きた日本軍による真珠湾攻撃。これによって第2次世界大戦に参戦したアメリカは、以降積極的にヨーロッパ戦線にも大量の軍を派遣することに。
 ナチスが侵攻を開始した1939年当時、ジャズの楽団を率いるジャック・グレン(ジェームズ・カーン)は楽しい日々を送っていたが、時代が進む中、彼は妻のスーザン・グレン(ジェラルディン・チャップリン)を交通事故で失うという不幸に見舞われることに。しかし、グレン家では世代交代が順調に進み、娘のサラ(ジェラルディン・チャップリン)はその青春時代にさまざまな問題を抱えながらも立派な歌手に育っていった。そして、1981年にパリのトロカデロ広場で開催されたチャリティコンサートでは、歌手として出場するまでに。

<40年間の波乱の人生は、「ボレロ」に収斂!>
 パリ、ベルリン、ロシアそしてアメリカを舞台とし、4人の実在の人物をモデルにした4つの家族たちは、それぞれ1930年代後半から約40年間の人生を生きてきたが、その最後の舞台は1981年エッフェル塔前のパリ・トロカデロ広場で行われた『ボレロ』の踊りとなる。本作は冒頭のボレロの踊りと、ラストで15分間も続くボレロの踊りがハイライト。そして、冒頭で踊るダンサーはボリス・イトビッチで、ラストで踊るダンサーはセルゲイ・イトビッチだ。
 本作は185分という長尺であるうえ、パリ、ベルリン、ロシア、アメリカを舞台として多くの人物が登場し、しかも40年間にわたるそれぞれの波乱の人生を描いているから、そのストーリーを追うのは大変。しかして、それを1つ1つ言葉で表現するより、ただ黙ってラスト15分間の「ボレロの踊り」を鑑賞すれば、それぞれの人生の愛と哀しみがわかってくるから不思議なものだ。『ボレロ』の曲は単調だし、その踊りも上半身裸の1人のダンサーが舞台の上で身体を動かすだけだが、なぜそれが人の愛と哀しみをアピールすることになるの?そんな貴重な体験を、本作の185分間でしっかりと!
                                  2015(平成27)年11月13日記

ロベール・オッセン
ジェラルディン・チャップリン
ジェームズ・カーン
]
]
]
]
ジョルジュ・ドン
]
エブリーヌ・ブイックス
]
リタ・ポールブールド