洋15-123

「キングスマン」
    

              2015(平成27)年10月25日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・製作・脚本:マシュー・ヴォーン
原作:マーク・ミラー
ハリー・ハート(「キングスマン」のエージェント)/コリン・ファース
アーサー(「キングスマン」のリーダー)/マイケル・ケイン
ゲイリー・“エグジー”・アンウィン(キングスマン候補生)/タロン・エガートン
リッチモンド・ヴァレンタイン(天才的エンジニア、IT富豪)/サミュエル・L・ジャクソン
マーリン(キングスマン候補生の教官)/マーク・ストロング
ガゼル(ヴァレンタインの片腕、義足の美女)/ソフィア・ブテラ
ロキシー(キングスマン候補生の紅一点)/ソフィー・クックソン
アーノルド教授/マーク・ハミル
2014年・イギリス映画・129分
配給/KADOKAWA

<キングスマンとは?そのスパイ組織の実態は?>
 アメリカにCIA(中央情報局)、FBI(アメリカ合衆国連邦捜査局)があれば、イギリスにはMI6(秘密情報部)がある。また、アメリカにマット・デイモン演じるJB(ジェイソン・ボーン)がいれば、イギリスにはショーン・コネリー等が演じたJB(ジェームズ・ボンド)がいる。戦後70年間の平和を享受し、平和ボケの感が強い日本ではスパイ組織の重要性が議論されることは少ないが、ロシアの旧KGB(ソ連国家保安委員会)、ソ連崩壊後のFSB(ロシア連邦保安庁)やイスラエルのモサド(イスラエル諜報特務庁)など世界各国がそれぞれ(国営の)スパイ組織(諜報機関)を備えているのは当然のことだ。
 しかして、本作が描くキングスマンとは一体ナニ?それは、「アーサー王物語」で有名な中世の「円卓の騎士」を彷彿させる、献身的で利他的なスパイ集団のこと。その最大の特徴は、彼らはどの国にも属さない世界最強のスパイ軍団だという点にある。なるほど なるほど。その着眼点と発想は面白いが、そんな理想でかつては国際連盟がつくられ、第2次世界大戦後は国際連合がつくられたにもかかわらず、必ずしもこれが有効に機能していない現実を見れば、現実問題としてはそんなスパイ集団はありえないのでは・・・?

<コリン・ファースがスパイ・アクションに初挑戦!>
 たしかにそうかもしれないが、映画は何でもあり!1962年の『007 ドクター・ノオ』から始まった『007』シリーズにおけるジェームズ・ボンドだって、映画の上では面白いが、現実にはあんなスパイはありえないものだ。しかして、本作では何と『英国王のスピーチ』(10年)(『シネマルーム26』10頁参照)で2011年の第83回アカデミー賞主演男優賞を受賞したコリン・ファースがスパイアクションに初挑戦!
 高級なスーツ姿がよく似合うのはジェームズ・ボンドもコリン・ファース扮するハリー・ハートも同じだが、ロンドンの高級テーラー「キングスマン」を拠点とするスパイ機関「キングスマン」に結集する円卓の騎士たちの武器は、007のジェームズ・ボンドのそれよりもっとクラシック。ジェームズ・ボンドの武器(売り)の1つは車だったが、英国紳士風に傘を手に持ったハリーには車は似合わないため、本作では車は一切登場しない。本作のINTRODUCTIONには「今まで、こんなブッ飛んだスパイ映画があっただろうか!」と紹介されているが、さてそのブッ飛びぶりは・・・?

<任務遂行と次世代育成を同時に!>
 現在プロ野球では、福岡ソクトバンクホークスと東京ヤクルトスワローズとの間で日本シリーズが戦われている。他方、共に貧打でセリーグの2位、3位にとどまった巨人と阪神はそれぞれ監督が原辰徳から高橋由伸に、和田豊から金本知憲に交代し、大きな変革期を迎えている。ドラフト制度が定着した近時は、巨人だけが欲しい選手をいくらでも獲ることはできなくなっているから、どのチームも与えられた制度や条件の下で戦い、成績を上げつつ、次世代を育成することが要請されている。しかし、任務遂行と次世代育成を同時に達成するのが難しいことは、過去長年にわたる阪神タイガースの例が示している。
 ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットが共演した『スパイ・ゲーム』(01年)は、スパイの世界における師弟モノだったが(『シネマルーム1』23頁参照)、本作もコリン・ファースを主演に据えているものの、実はそのテイストは師弟モノ。映画冒頭、同僚の死を招いたことの責任を痛感したハリーは、17年後の今、22歳に成長したその息子ゲイリー・“エグジー”・アンウィン(タロン・エガートン)をキングスマンに育てようとスカウトしたが、当のエグジーは・・・?イギリスは日本と違って今なお身分意識が強く、貴族階級と労働者階級は完全に分離されているから、貧乏暮しでケチな犯罪に走っているエグジーは、いわばゴミ箱に巣くうチンピラ。したがって、そんな悪ガキが「円卓の騎士」の集団たるキングスマンの戦士になるのは至難のワザだが、キングスマンの新人教育係たるマーリン(マーク・ストロング)はエグジーや紅一点のロキシー(ソフィー・クックソン)ら数名の新人をどう教育するの?その訓練は、失敗したら死が待っているという過酷なもの(?)から、相棒として躾けてきた犬を自分の銃で撃ち殺せという非人間的なもの(?)までさまざまだが、そこで生き残り、合格できるのは一体ダレ・・・?
 キングスマンの活動ぶりもかなりブッ飛んでいるが、エグジーやマーリンらが新人教育で見せる各種シークエンスもかなりブッ飛んでいるので、それに注目!

<ワル役もかなりブッ飛んだ、今風のIT富豪!>
 冒頭に見るハリーの同僚の任務遂行中の死亡は、1997年中東でのこと。それを見ているとキングスマンの敵はかなりシリアスな奴と思ったが、今ハリーがキングスマンのリーダーであるアーサー(マイケル・ケイン)の命令で追っているのは、優秀な学者や科学者、芸能人が次々と失踪を遂げる事件の謎。その首謀者として浮上してきたのは、天才的エンジニアでIT富豪のリッチモンド・ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)だが、彼は同時に環境保護を訴える活動家だった。IT企業が儲けた金を慈善事業に使う発想はよくあるが、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏を彷彿とさせるヴァレンタインは、サミュエル・L・ジャクソンが演じていることもあって、どことなく変質狂的かつ狂信的だ。
 スティーブ・ジョブズの記者会見とそっくりな記者会見をしたヴァレンタインは、「すべての携帯やパソコンに対応可能なカードで、わが社の通信ネットワークを無料で使用できる。通話無料。ネットも無料。すべての利用者が永久に!」と宣言し、さらに「人々に無料のSIMカードを配布する」と宣言したから、世界中の人々はそれを求めて長蛇の列を作ることになったのは当然。しかして、このSIMカードに組み込まれたカラクリとは・・・?

<片腕となる義足の美女のブッ飛びぶりにも注目!>
 私はクエンティン・タランティーノ監督の映画が大好き。とりわけ『キル・ビル~KILL BILL~Vol.1』(03年)(『シネマルーム3』131頁参照)、『キル・ビル~KILL BILL~Vol.2』(04年)(『シネマルーム4』164頁参照)が大好きだったが、そこでユマ・サーマンが演じた「ザ・ブライド」と名乗る金髪のヒロインや、中国人の美人女優ルーシー・リューが演じた剣術の達人オーレン・イシイ、栗山千明が演じた17歳の女子高生ゴーゴー夕張など、タランティーノ監督が創り出す女たちのキャラは独特のものだった。
 それと同じように、本作のワル役たるヴァレンタインの片腕として、狂気のプロジェクトをサポートしている義足の美女ガゼル(ソフィア・ブテラ)のキャラも独創的だ。ヴァレンタインが拉致したアーノルド教授(マーク・ハミル)の救出をめぐっては、ハリーの同僚も犠牲者になったが、そこで見事な腕前を見せたのが、義足を切れ味鋭い刀のように使うガゼルの格闘技。このガゼルの美女ぶり(?)と、その切れ味鋭い独特の格闘技に注目!
 
<師匠の屍を乗りこえて、弟子の出番に!>
 ヴァレンタインの戦略は、IT富豪らしく、人間の首に埋め込んだチップによってその人間を自由にコントロールすること。アーノルド教授の首に埋め込まれたチップによって本人が爆死させられたのは仕方ないが、そのとばっちりを受けてハリーも瀕死の重傷を負い、病院に収容されることに。さあこうなれば、何とかキングスマンの新人登用試験にロキシーと共に合格したエグジーの出番だが、労働者階級出身のチンピラだったエグジーの紳士度のアップぶりと成長ぶりは・・・?
 本作はあくまでハリーが主役だと思っていたが、クライマックスに向けては師弟モノの本来の筋書きどおり、師匠の屍を乗りこえて、弟子の出番になってくるのでそれに注目!キングスマンへの登用試験でエグジーやロキシーたちはさまざまな過酷な訓練を乗りこえてきたから、その成果を活かすのは、師匠たちが亡くなった今をおいてほかにない。高級テーラー「キングスマン」の地下には豊富な武器がありそれらは使い放題だが、ヴァレンタインとその片腕のガゼルたちの実力は計り知れないものがある。教育係のマーリンのリードの下に、エグジーとロキシーはその強力な敵に立ち向かったが、さてその展開は?

<打ち上げ花火(?)のブッ飛びぶりに拍手!>
 スマホ時代となった今、電車の中を見れば、座っている人はもちろん、立っている人もそのほとんどがスマホとにらめっこ。街を歩けば、歩きスマホの危険でいっぱいだ。私は今なおいわゆるガラケーだが、それでも時々一斉に流れてくる「○○警報」にはビックリさせられる。そんな時代状況の中、ヴァレンタインのようなワルが全世界の国民にタダで配ったSIMカードを利用して悪事を働けば、何でも自由にできてしまうのでは?という不安が生まれてくるのは当然だ。
 ヴァレンタインが拉致したアーノルド教授を支配していたのは、その首に埋め込んだチップによるものだが、当然ヴァレンタインはそのチップを爆発させる起爆装置を持っているはず。それは、世界各国の「核のボタン」が各国のリーダーの手に委ねられているのと同じことだ。しかして、キングスマンの戦士としてヴァレンタインとの対決に挑んだエグジーたちが、ギリギリに追いつめられた中で取った最後の奇策とは・・・?
 そこで打ち上げ花火のように打ち上がる美しい風景(?)のブッ飛びぶりに拍手!タランティーノ監督の映画ならいざ知らず、『007』シリーズという正統派スパイ映画や『裏切りのサーカス』(11年)(『シネマルーム28』114頁参照)のようなクソ難しいスパイ映画を生んだ紳士の国イギリスで、こんなブッ飛んだスパイ映画は前代未聞だろう。マンガ的になってしまうとの批判はあるだろうが、映画は何でもあり、と考えている私はこんな演出に大拍手!
                                  2015(平成27)年10月28日記