洋14-11

「ジミー、野を駆ける伝説」
    

                  2014(平成26)年1月25日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督:ケン・ローチ
ジミー・グラルトン(元活動家)/バリー・ウォード
アリス(ジミーの年老いた母親)/アイリーン・ヘンリー
ウーナ(ジミーの元恋人)/シモーヌ・カービー
シェリダン神父/ジム・ノートン
シーマス神父/アンドリュー・スコット
モシー/フランシス・マギー
マリー・オキーフ/アシュリン・フランシオーシ
/ブライアン・F・オバーン
2014年・イギリス、アイルランド、フランス映画・109分
配給/ロングライド

<お勉強その1 ジミー・グラルトンって何者?>
 本作のタイトルになっているジミーとは、ジミー・グラルトンのこと。本作の舞台はアイルランド西部内陸のリートリム州、時代は1932年だ。本作のストーリーは、このジミー・グラルトンが1921年6月にニューヨークから故郷のリートリムに戻るところから始まる。冒頭に流れる字幕によって、この時期が1922年の「英愛条約」をめぐる内戦がアイルランドを暗雲で覆い、ジミーが条約賛成派の自由国軍らによって追放された時期であるということがわかるが、ジミーは一体どんな罪で国外に追放されていたの?
 現在、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』では、1850年~60年代に大活躍した吉田松陰や高杉晋作が描かれている。多くの日本人は彼らのことは知っていても、1920年~30年代にアイルランドで大活躍したジミーのことはほとんど知らないはずだ。そんなあなたは、まず、ジミーのお勉強をしっかりと。

<お勉強その2 アイルランドってどんな国?>
 アメリカがイギリスから独立するために独立戦争(1775年~1783年)を戦ったことは知っていても、①アイルランドがアイルランド共和国を建国するために1919年に対英独立戦争をしたこと、②1921年に対英独立戦争が休戦となり、英愛条約を締結したこと、等を多くの日本人は知らないはず。さらにその後、③条約反対派が事実上降伏し、内戦が締結したこと、④デ・ヴァレラ派がフィーナ・フォイル党を結党したこと、⑤英愛経済戦争が1932年に勃発したこと、等々も知らないはずだ。
 本作のパンフレットには、①大森さわこ(映画評論家)の「ケン・ローチ作品を味わうための8つの視点」、②ドナル・オドリスクル(本作の歴史監修者)の「“勇敢なる音楽の日々”歴史的背景に関する注釈」、③森ありさ(日本大学文理学部教授)の「本作を読み解く6つのキーワード」、そして④「ジミー・グラルトンの人生」があるから、本作を鑑賞するについてはそれらを読んで、アイルランドのことをしっかり勉強したい。

<お勉強その3 ケン・ローチってどんな監督?>
 ケン・ローチ監督は1936年生まれのイギリスの巨匠だが、彼が映画の中で特にこだわって描くのは労働者階級の物語らしい。パンフレットにある「SPECIAL INTERVIEW 井筒和幸(映画監督) インタビュー」において、井筒監督は、「社会主義者の彼は明確なイデオロギーを持っています」と書いている。彼の代表作は、第59回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『麦の穂をゆらす風』(06年)だ。
 私はケン・ローチ監督の『この自由な世界で』(07年)の評論で、「残念ながら私は、『麦の穂をゆらす風』を見逃していたので、『この自由な世界で』は絶対に観なければならないと思っていた作品」と書いたが、『この自由な世界で』の問題提起の鋭さにビックリさせられた(『シネマルーム21』247頁参照)。『麦の穂をゆらす風』もアイルランドの独立戦争を背景にした問題提起作だったが、それは本作も同じ。もっとも、本作にはド派手な戦闘シーンなどは全くなく、あくまでジミーの生き方を通して、その時代のアイルランドの問題点がケン・ローチ監督流で鋭く描かれるから、それに注目!

<お勉強その4 本作の象徴となるホールって一体ナニ?>
 本作は、故郷に戻ってきたジミーが仲間たちの要望に従ってホール(集会所)を再建するところから物語が大きく動いていく。今の私たちが見る限り、このホールは若者たちのいわば各種サークルのための集会所にすぎない。しかし、カトリック教会の権威がメチャ強かった1910~20年代においては、若者のそんな自主的な各種サークル活動すら「危険」と見なされたようだ。また、ジミーは共産主義者でも社会主義者でもなく、勤勉な労働者にすぎないことは自分が表明しているとおりだから、私たち日本人にはこの時代のアイルランドにおける「対立点」を理解するのは結構難しい。
 本作にはジミーの人格の高潔さを認めながら、その動きを危険なものとみなす権力者のシェリダン神父(ジム・ノートン)と、ジミーたちの活動に若干の理解を示すシーマス神父(アンドリュー・スコット)の2人が登場するので、それを対比しながら、本作で労働者階級の象徴となっているホールの意義をしっかり考えたい。

<お勉強その5 IRAって一体ナニ?>
 中国の軍隊(国軍)は人民解放軍と呼ばれるが、これは人民の軍隊であることを示すための名称。日本の自衛隊は過去、警察予備隊から保安隊と呼び名を変えてきたが、現在議論されている「国防軍」への名称の変更の可否は?
 本作では、ジミーがかつてIRA(アイルランド共和軍)に属していたことが語られるうえ、後半からは「地主によって不当に自宅から追い出され、妻と5人の子供とともに路頭に迷っている労働者を救うため、力を貸してほしい」とIRAのメンバーがジミーたちに協力を求めにやってくるストーリーが描かれる。IRAは1919年にアイルランド共和国建国のために動き始めた義勇軍(ゲリラ)の呼称として使われたもので、アイルランドの歴史では大きな意義をもっている。できれば本作を契機として、あらためて『麦の穂をゆらす風』を鑑賞し、IRAについてしっかり勉強したい。

<アイリッシュ・ダンスもタップリと!>
 私は数年前に観た『リバーダンス』における、アイリッシュ・ダンスのダイナミックな踊りが強く印象に残っている。ウィキペディアによれば、「リバーダンス」とは「アイリッシュ・ダンスやアイルランド音楽を中心とした舞台作品のことである。アイリッシュ・ダンスの中でも特に体幹や腕を使わずに足の動きだけで踊るアイリッシュ・ステップダンスと呼ばれる舞踊を元にしている」。本作におけるホールでのダンスシーンを見れば、アイルランドでは子供を含めて老いも若きもアイリッシュ・ダンスが大好きなことがよくわかる。
 ジミーたちの仲間がホールに集まって賑やかな音楽に乗ってアイリッシュ・ダンスに興じている中、突然銃弾を撃ち込まれるところから、本作後半の深刻なストーリーが始まっていく。ジミーはシェリダン神父をホールの運営委員に加えることによって対立する事態を収拾しようとしたが、その話し合いも決裂。その後、ホールは無残にも焼かれてしまったうえ、ジミーには国外追放の命令が下り、官憲の手が。これでは、アイリッシュ・ダンスどころではなくなってしまったのは当然だが、さて、その後のジミーの動向は・・・?
 昨年9~12月に起きた香港の「雨傘革命(2014年香港反政府デモ)」の「挫折」と対比しながら、そんな歴史をしっかり勉強したい。
                                  2014(平成26)年1月28日記