日15-117

「天空の蜂」
    

              2015(平成27)年10月17日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:堤幸彦
原作:東野圭吾『天空の蜂』(講談社文庫刊)
湯原一彰(ビッグBの設計士)/江口洋介
三島幸一(原発の設計士)/本木雅弘
中塚一実(発電所「新陽」所長)/國村隼
雑賀勲(さいかいさお)(ビッグBを奪った男)/綾野剛
佐久間(消防本部特殊災害課長)/光石研
上条(高彦救出に向かう自衛隊員)/永瀬匡
根上(救助ヘリの操縦士)/やべきょうすけ
室伏周吉(福井県警ベテラン刑事)/柄本明
関根(福井県警新米刑事)/落合モトキ
今枝(福井県警警部部長)/佐藤二朗
野村(愛知県警刑事)/松島花
高坂(愛知県警刑事)/手塚とおる
芦田(警察庁長官)/竹中直人
筒井(「炉燃」理事長)/石橋蓮司
湯原篤子(湯原の妻)/石橋けい
赤嶺淳子(三島の恋人)/仲間由紀恵
湯原高彦(子役)/田口翔太
湯原高彦(成人)(2011年被災地に赴く自衛隊員)/向井理
2015年・日本映画・138分
配給/松竹

<20年前の東野圭吾の原作を、今タイムリーに映画化!>
 ベストセラー作家・東野圭吾の原作は、私が観たものだけでも『手紙』(06年)(『シネマルーム12』207頁参照)、『容疑者Xの献身』(08年)(『シネマルーム21』143頁参照)、『さまよう刃』(09年)(『シネマルーム23』207頁参照)、『白夜行』(11年)(『シネマルーム26』191頁参照)、『真夏の方程式』(13年)(『シネマルーム31』228頁参照)が映画化されている。
 しかし、1995年に発表された『天空の蜂』は斬り込み方が難しい「原発問題」に焦点を当てた社会問題提起作であるため、もともと映像化が難しいもの。そのうえ、ストーリーの骨格は「すべての原発を破棄しなければ、新型の軍用ヘリコプター『ビッグB』を福井県にある高速増殖炉『新陽』の上に墜落させる」と要求され、8時間以内にその対応を決断しなければならないというスリリングなものだから、長い間「映像化不可能」と言われていたらしい。
 しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災と、その直後に起きた福島第一原子力発電所の事故によって、否応なく日本国民全体に原発(の可否)問題への「本気度」が試される中、堤幸彦監督がついにその映像化にチャレンジ!

<「天空の蜂」とは?ビッグBとは?>
 最近はやっと自動操縦自動車の開発競争が現実味を帯びてきたが、無人航空機や無人ヘリの活用、とりわけその軍用的活用は日本でも1950年代から研究が開始されたらしい。近時は人が搭乗していない航空機「ドローン」の活用方法が大きな社会問題になっているが、1995年当時に自動操縦できる軍用ヘリコプターという発想を取り入れ、それと原発問題をセットにした東野圭吾氏の着想はすばらしい。2015年の今、冒頭に見る湯原一彰(江口洋介)たちが開発した自動操縦可能な最新の軍用ヘリ「ビッグB」の姿は、壮大で現実味タップリだ。しかし、ホントにこんなものが奪えるの?
 ビッグBを奪った犯人(テロリスト?)(たち)は自らを「天空の蜂」と名乗ったが、犯人はなぜ自らをそんな文学的な(?)名称で呼んだの?ストーリーが進むにつれて、蜂(Bee)はビッグBの愛称だということがわかるから、ひょっとして犯人は内部に・・・?
 本作前半は湯原の息子・高彦(田口翔太)が遊んでいるうちに自動操縦が開始したビッグBの中に取り残されるという、本来のテーマとは少しズレたストーリーが展開されるから、自衛隊員の上条(永瀬匡)や救助ヘリの操縦士である根上(やべきょうすけ)らによるスリリングかつアクロバット的なその救出劇を楽しむことができる。しかし、後半からは「犯人は誰だ?」という本作本来のテーマに斬り込んでいくから、「天空の蜂」というタイトルを頭におきながら、その犯人像に迫りたい。

<犯人の要求は?所長や政府そして警察の対応は?>
 高倉健が主演した『新幹線大爆破』(75年)における犯人の要求は単純にカネだったが、ビッグBを奪い、「天空の蜂」と名乗る犯人の要求は、新陽の上でホバリング(一時停止)しているビッグBの燃料が切れる8時間以内に日本中すべての原発を止めろというもの。8時間以内にその要求を受け入れなければ、燃料の切れたビッグBが新陽の上に墜落してしまうから、そうなれば日本列島の大部分は壊滅状態に・・・。2011年3月11日の東日本大震災直後に起きた福島第一原子力発電所の爆発事故の対応をめぐっては、時の総理大臣であった民主党の菅直人の対応のひどさと、福島第一原子力発電所の所長であった故吉田昌郎氏の毅然とした対応のすばらしさが対比された。しかして、1995年に書かれた原作にもとづく本作でも、それと似たような風景が展開していくことになる。
 まずは、李相日監督の『許されざる者』(13年)(『シネマルーム33』88頁参照)で、時代遅れの武士・北大路正春役を演じて、大石一蔵役の佐藤浩市にコテンパンにやっつけられてしまった國村隼が、本作ではあたかも吉田昌郎所長のように「新陽」の所長・中塚一実役をカッコ良く演じていくのでそれに注目!本作に総理大臣が登場して直接指揮命令をしていないのは、当時の災害対策基本法等の危機管理法制の限界を露呈したものだが、本作に登場する警察庁長官・芦田(竹中直人)や「炉燃」理事長・筒井(石橋蓮司)たちの指揮命令ぶりはいかにも頼りない。他方、犯人逮捕に向かうのが、愛知県警の 野村(松島花)と高坂(手塚とおる)、福井県警ベテラン刑事・室伏周吉(柄本明)と新米刑事・関根(落合モトキ)だが、彼らに与えられた時間は8時間しかないから、その捜査は大変だ。
 本作では、福島第一原子力発電所の事故の時に見た政府の対応と対比しながら、所長や政府そして警察の対応に注目したい。

<犯人の特定は?犯人は単独?それとも複数?>
 自由と民主主義の国ニッポンでは反原発勢力の動きも活発だから、警察が原発に恨みを持つ反対勢力の中に犯人がいるのではないかと目を向けたのは当然。その中で急浮上してきたのが、航空自衛隊時代に国から使い捨てにされた挫折と、その後勤めた各地の原発での劣悪な環境下での清掃業務で友人を労災で失ったことによって、原発そのものに恨みを持つ、雑賀勲(綾野剛)という男だ。2013年の第37回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞し、おおさかシネマフェスティバル2015でも主演男優賞を受賞した綾野剛が、本作ではひげぼうぼうの姿で何とも大胆な社会問題提起に命をかける雑賀役を演じているのでそれに注目!
 室伏刑事と関根刑事が乏しい時間の中で雑賀の逮捕に向かったのは立派だが、雑賀がビッグBのリモコンらしき装置を持ったままトラックの前に身を投げ出して死んでしまうとアレレ・・・。これにて犯人像の特定がジ・エンドになれば、あとはビッグBの墜落を待つばかりだが・・・。

<クライマックスに向けて、犯人像はますます複雑に!>
 2009年の第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(08年)(『シネマルーム21』156頁参照)で、第32回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞した本木雅弘は、今年最大の話題作『日本のいちばん長い日』(15年)で昭和天皇役を堂々と演じていた。本作の主役はあくまで冒頭から登場する江口洋介演じるビッグBの設計士・湯原一彰だが、その本木雅弘が本作後半からは、湯原とも以前から親交のあった、「新陽」の設計者である三島幸一役で登場し、何とも複雑な役柄と心理を表現している。偶然にもビッグBに乗り込んでいた湯原の息子・高彦救出のために現地に飛んだ湯原に対して、反発しあいながらもさまざまなアドバイスをする三島の姿を見ていると、この男が雑賀の共犯者で、ビッグBの強奪による今回の原発破棄要求事件の黒幕であったとは到底考えられないから、クライマックスに向けてのその展開に身を乗り出していくこと必至だ。
 本作には更にもう一人、密かに三島に協力している内部の人間として、仲間由紀恵演じる赤嶺淳子も登場するので、そのスリルとサスペンスそして複雑で多岐にわたる心理劇の展開のサマは見応え十分だ。クライマックスに向けてますます複雑になっていく、真の犯人像に注目!

<原発の安全性は絶対?飛行機が墜落しても問題なし?>
 2001年4月から5年半にわたって日本の構造改革のリーダーとして、その「異能ぶり」を発揮した小泉純一郎元総理が、2011年3月11日の東日本大震災の後、突然「原発廃止論者」に切り替わったのには驚いたが、原発の安全性をめぐっては、何がホントで何がウソか、さっぱりわからないほど情報がコントロールされ、隠蔽されている。戦艦大和があっけなく沈んでしまったように、そもそも「不沈戦艦」などあり得ないことは明らかだし、処女航海のタイタニック号の沈没も、世の中の期待を大きく裏切るものだった。同じように、原発の安全性は絶対!飛行機が墜落しても問題なし!などという主張が誇大妄想であることは明らかだが、権力を掌握した政府や、高名な学者たちがこぞってそう主張すると、何となく・・・。
 世の中でまかり通っているそれらの議論(空中戦)のバカバカしさを一番よく知っているのは、当の「新陽」を開発した三島たち、原発の現場で働く研究者、技術者だが、もし仮に新陽の上にビッグBが墜落すれば新陽はどうなるの?政府の公式見解によれば、それでも新陽の安全性に問題はないはずだが、さて本当のところは?原発のために、辛苦をなめた元航空自衛隊の雑賀勲や、父親が原発の設計者だという理由で息子がいじめにあい、その死亡を止められなかった三島は、原発の安全性のホント?ウソ?と日々真剣に向かい合ってきたが、原発の恩恵を受けている肝心の一億人の日本国民たちの理解や問題意識は?
 本作ラストの手に汗を握るクライマックスは、湯原のリモコン操作によって墜落してくるビッグBを、新陽の上から少しでも海の方にずらすことができるかどうかというシークエンスになるが、その結果はミエミエ。しかして、問題はもし本当に雑賀や三島が計画したようにビッグBが新陽の上に墜落していれば・・・?ということだが、さてあなたはそんな「If・・・」についてどう考える?
 本作の鑑賞を契機にそれをトコトン考えることができれば、本作は単なるスリルとサスペンスに富んだエンタメ話題作ではなく、大きな大きな社会問題提起作に位置づけられるはずだ。
                                  2015(平成27)年10月22日記