洋15-111

「夏をゆく人々」
    

                      2015(平成27)年9月10日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
ジェルソミーナ(養蜂を営む一家の四人姉妹の長女)/マリア・アレクサンドラ・ルング
ヴォルフガング(ジェルソミーナの父)/サム・ルーウィック
アンジェリカ(ジェルソミーナの母)/アルバ・ロルヴァケル
ココ(一家に居候している女性)/ザビーネ・ティモテオ
マルティン(少年更生プランでヴォルフガングが預かる少年)/ルイス・ウイルカ・ログローニョ
イルデ(少年更生係の女性)/マルガレーテ・ティーゼル
アンドリアン(番組担当者)/アンドレ・M・ヘンニッケ
ミリー・カテナ(TV司会)/モニカ・ベルッチ
マリネッラ(四人姉妹の次女)/アニェーゼ・グラツィアーニ
ルーナ(四人姉妹の三女)/マリス・ステッラ・モロー
カテリーナ(四人姉妹の四女)/エヴァ・レア・パーチェ・モロー
2014年・イタリア、スイス、ドイツ映画・111分
配給/ハーク

<第67回カンヌ国際映画祭で見事グランプリを受賞!>
 毎年2月になると日本ではアカデミー賞の話題で持ちきりになるが、伝統ある世界三大映画祭はフランスのカンヌ国際映画祭、イタリアのベネチア国際映画祭、ドイツのベルリン国際映画祭の3つ。私はなぜか2014年5月14日~25日に開催された第67回カンヌ国際映画祭の受賞作をたくさん鑑賞しているため、『シネマルーム33』『シネマルーム35』『シネマルーム36』にはそれらをたくさん収録している。
 その代表作は、パルム・ドール賞を受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『雪の轍』(15年)だが、その他にも審査員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン監督の『Mommy/マミー』(14年)、男優賞を受賞したティモシー・スポール主演の『ターナー、光に愛を求めて』(14年)と、批評家週間グランプリ、新人賞を受賞したミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の『ザ・トライブ』(14年)を『シネマルーム36』に収録している。また、女優賞を受賞したジュリアン・ムーア主演の『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(14年)は『シネマルーム35』(237頁)に収録している(審査員賞を受賞した『さらば、愛の言葉よ』(14年)は『シネマルーム35』未掲載)。また、惜しくも受賞できなかった河瀨直美監督の『2つ目の窓』(14年)は『シネマルーム33』(76頁)に収録している。
 しかして、製作時、弱冠32歳のイタリアの新進女性監督アリーチェ・ロルヴァケルの長篇2作目となる本作は、その第67回カンヌ国際映画祭で見事グランプリを受賞!

<圧倒的な映像美とカメラワークに注目!>
 8月23日に観た『ふたつの名前を持つ少年』(13年)も、9月3日に観た『あの日のように抱きしめて』(14年)も、「アウシュヴィッツ解放70年」の節目となる問題提起作だったこともあって、明暗のコントラストの映像美が際立っていたが、イタリアのトスカーナ地方を舞台とした、本来明るいはずの本作でも、冒頭のシーンは明暗のコントラストから始まるからその映像美に注目!また、デンマークの女性監督スサンネ・ビアはクローズアップ手法が大きな特徴だが、それは本作でも同じ。さらに本作のヒロインとなる、13歳の四人姉妹の長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)たちの生活を映し出すカメラの映像美は、近時の多くの邦画のカメラとは全然異質だ。しかも、そのカメラの対象も、ほとんど素っ裸で寝ている父親の姿や、パンツ姿で水辺で遊んでいる四人姉妹の三女と四女の姿など、無防備そのものだから、そんなカメラワークにも注目!
 他方、養蜂業の仕事については、あくまで頑固で暴君的な父親ヴォルフガング(サム・ルーウィック)と、その父親から頼りにされている長女のジェルソミーナとの、防護服を着た中での真剣な仕事ぶりは緊張感がいっぱい。それを舐めるように映していくカメラのターゲットを観ていると、いかに養蜂業が大変かがよくわかる。ちなみに、パンフレットの監督インタビューを読むと、「本作では視覚効果やCGを一切使わず、すべて本物のミツバチで撮影することにこだわりました。本物のハチの様子を映し出したかったし、俳優たちにも本物のハチの巣やハチの大群と共に演技してほしかったから。そのために、テストを何度も行いました。」と書いていたから、なるほど、なるほど・・・。

<エトルリア文化とは?美人のTV司会者に注目!>
 
日本に縄文文化や弥生文化があったのと同じように、ローマ帝国が支配する以前のイタリア、つまり紀元前750~500年のイタリアには、トスカーナ州を中心として栄えたエトルリア文化というものがあったらしい。その詳細は各自で調べてもらいたいが、本作では『ふしぎの国』というTV番組の美人司会者ミリー・カテナ(モニカ・ベルッチ)が本作のヒロイン・ジェルソミーナの生き方に大きな影響を与えるので、それに注目!
 ジェルソミーナは厳格な父親ヴォルフガングに信頼されているため、毎日養蜂の仕事でこき使われているが、思春期の女の子だから表面上はそんな父親の意向に従っていても、内心では反抗心を含め多くの複雑な感情が・・・。また、これまでヴォルフガングの下での狭い世間しか知らなかったジェルソミーナがはじめて見る、銀色に輝くカツラにきらびやかなドレスをまとった番組の司会者ミリーの神々しい美しさにビックリしたのは当然だ。『ふしぎの国』は、その地にいまも根づくエトルリア文化を紹介し、その伝統に則った生活をする家族を募集し、コンテストをするという番組。その番組担当者のアンドリアン(アンドレ・M・ヘンニッケ)は、養蜂業を営むヴォルフガングに対してその応募をすることを勧めてきたから、ジェルソミーナが大乗り気になったのは当然。もちろん、閉鎖主義者(?)のヴォルフガングはそんなTV番組に何の興味も示さなかったが、父親に内緒で申し込みをした結果、あれよあれよの展開に・・・。
 さて、ジェルソミーナは美人司会者ミリーから、そしてまた『ふしぎの国』というTV番組への応募と参加から何を学び、どのように成長していくのだろうか?

<女ばかりの家族に突然異質な少年が!>
 ヴォルフガングは養蜂業の後継ぎとして、きっと男の子が欲しかったはずだが、長女ジェルソミーナに続いて生まれたのは次女マリネッラ(アニェーゼ・グラツィアーニ)。さらにその後は双子の三女ルーナ(マリス・ステッラ・モロー)と四女カテリーナ(エヴァ・レア・パーチェ・モロー)だったから、ヴォルフガングの失望はいかばかり・・・?横暴な父親の圧政(?)の中でも母親のアンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)は4人の子供たちをしっかり育てていたし、この家族に身を寄せているココ(ザビーネ・ティモテオ)もアンジェリカによく協力していた。しかし、思春期のジェルソミーナも今はヴォルフガングの言うことに少なくとも表面上は従っているようだが、いずれ反発するのは時間の問題・・・。さらにヴォルフガングの横暴があまりにひどくなりすぎると、アンジェリカが4人の子供を連れて「離婚よ!」と言い始める危険も・・・。そんな中、本作ではとりわけ三女と四女が楽しみにしている「ラクダ」のプレゼントという挿話が入るので、それにも注目。
 もっとも、それ以上に本作のストーリー構成に大きな影響を及ぼすのはヴォルフガングが少年更生係のイルデ(マルガレーテ・ティーゼル)の申し入れを1人で勝手に受け入れ、女ばかりの家族の中に突然マルティン(ルイス・ウイルカ・ログローニョ)という14歳の少年を「少年更生プログラム」によって預かることになったこと。そりゃ一体なぜ?真面目に養蜂業の仕事を手伝ってくれればそれでOKとは言っても、盗みと放火の罪で捕まったという少年はほとんど口もきかないから少し不気味。もし問題を起こせば、少年院に送り込むそうだが、女の子が4人もいる家族にそんな異質な少年が入り込み、万が一問題が起きれば取り返しがつかないのでは・・・?
 本作中盤ではそんな緊張感の中での養蜂業の営みが描かれていくが、力仕事にかけてはやっぱり男の子は女の子よりずっといい。そういう認識になったヴォルフガングとマルティンの関係は少しずつ良くなっていくが、さてジェルソミーナをはじめとする女たちは・・・?
 エトルリアの古代墓地がある島で行われたコンテストの受賞者が決まり、優勝者の表彰式が続く中、島の中では気を利かせたココが「ある行動」をとったことを契機として、マルティンの失踪事件が発生!これは一体なぜ?そのことに番組関係者や警察はどう対処するの?また、何よりも今や家族同然の存在になったマルティンが失踪したことについて、ヴォルフガングやジェルソミーナはどう向き合うの?本作のクライマックス(?)で展開されるそんなストーリーのなりゆきに注目!

<ヒロインにとっての「ひと夏の経験」は?>
 
本作は養蜂業を営むヴォルフガングの家族と、その長女であるジェルソミーナの「ひと夏の経験」と、そこから成長していくジェルソミーナの姿をアリーチェ・ロルヴァケル監督特有の温かい視線で描き、第67回カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞した作品。
 「ひと夏の経験」や「夏の終わり」というテーマを考えてみると、それをテーマとした歌や小説、映画がたくさんあることがわかる。たとえば、谷村新司の昔のヒット曲『22歳』における「22歳になれば少しずつ 臆病者になるわ 何故か分かる?貴方。あー 夏が行く傷を残して 風はもう秋の気配」という歌詞を読み解いてみると・・・?また、山口百恵の大ヒット曲の『ひと夏の経験』では「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」の、「一番大切なもの」とは何かが大きな議論を呼んだ。また、瀬戸内寂聴の原作を熊切和嘉監督が映画化した『夏の終り』(12年)では、満島ひかり演じる若き日の瀬戸内寂聴先生の「ひと夏の不倫」が生々しく描かれていた(『シネマルーム31』83頁参照)。
 しかして、この「ひと夏」でラクダの他、14歳の少年マルティンと出会い、さらに一大イベントともいうべきTV番組『ふしぎの国』への一家そろっての出演を果たした13歳の長女ジェルソミーナの「ひと夏の経験」の重みとは?そしてまた、その中で多分より強化されたであろう「家族の絆」とは?
 何事も説明過多な近時の邦画とは全く異質な余韻が残る、本作の結末をしっかり味わいたい。
                                  2015(平成27)年9月24日記