洋15-108

「わたしに会うまでの1600キロ」
    

                2015(平成27)年8月29日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:ジャン=マルク・ヴァレ
原作:シェリル・ストレイド『Wild:A Journey from Lost to Found』(静山社刊)
シェリル・ストレイド(1600キロ踏破に挑んだ女性)/リース・ウィザースプーン
ボビー(シェリルの母親)/ローラ・ダーン
ポール(シェリルの元夫)/トーマス・サドスキー
ジョナサン(シェリルがある町で出会った若者)/ミキール・ハースマン
エイミー(シェリルの親友)/ギャビー・ホフマン
リーフ(シェリルの弟)/キーン・マクレー
グレッグ(シェリルが道中で出会うハイカー)/ケヴィン・ランキン
フランク(シェリルに食べ物を提供する農家の男性)/W・アール・ブラウン
ジミー・カーター(ジャーナリストの男性)/モー・マクレー
2014年・アメリカ映画・116分
配給/20世紀フォックス映画

<自分さがしの旅?そんな甘っちょろい・・・?>
 本作の原題は『WILD』。それだけでは何の映画かサッパリわからないが、『わたしに会うまでの1600キロ』という邦題を見れば、すぐに本作は「自分さがしの旅」をテーマとした映画だということがわかる。そんなテーマの映画は、つい最近ミア・ワシコウスカがロビン役として主演した『奇跡の2000マイル』(13年)で観たが、その出来はイマイチだった。しかし、ショートパンツ姿で「モンスター」のような巨大なバックパックを背負って歩く実在の女性シェリル・ストレイドを演じる女優がリース・ウィザースプーンだと聞き、しかも彼女がこれで第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたと聞くと、そりゃ必見!さらに、シェリルの母親ボビー役を演じたローラ・ダーンも助演女優賞にWノミネートというからすごい。もっとも、「自分さがしの旅」と聞くと、私はつい「そんな甘っちょろい・・・」と思ってしまうが、いやいや・・・。
 『奇跡の2000マイル』のロビンと同じように、本作で1人で苛酷な旅に挑むシェリルはなぜ自分さがしの旅に?その動機は、まだ45歳と若い母親のガンによる死亡と、自分の夫ポール(トーマス・サドスキー)との離婚による喪失感。本作は原作者シェリル・ストレイドの体験記だからウソはないはずだが、本作を観ているとシェリルと優しい夫ポールとの離婚原因はシェリル自身の度重なる浮気とドラッグのせいだというから恐れ入る。愛する母親の死亡という現実の前で自暴自棄になったからといって、男をとっかえひっかえするのはいかがなもの?回想シーンで登場してくるシェリルの荒れっぷりは相当なものだ。
 これを見れば、その反省の上に自分さがしの旅が必要不可欠になったことはわかるが、日本のお遍路さんやお伊勢参りならともかく、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)ってそんなに簡単にできるの?『奇跡の2000マイル』に観たロビンだって、ラクダに慣れるため相当の準備と訓練期間を経ていたはずだが・・・。

<歩くとは?PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)とは?>
 PCTとは、アメリカ3大トレイルの一つで、正式名称は「The Pacific Crest National Scenic Trail」。本作を紹介した8月28日付の朝日新聞夕刊の記事によると、本作でシェリルが歩いたのは1600キロだが、日本の深町和代さんは2年前に172日かけてその全長約4200キロの全行程を踏破したらしい。また、パンフレットには北村道子氏(スタイリスト・衣裳デザイナー)の「“痛み”を伴う旅路の先に待つ一人の少女が大人になる瞬間」というタイトルの「REVIEW」がある。それを読むと、彼女も18歳の頃、「ロッキー山脈を歩いて越えて、それから五大湖を抜けて、南下」していく旅を3年間も続けたらしい。
 『奇跡の2000マイル』のロビンの場合は、誰が見ても無謀な旅で、何のためにそんなことをするのかがイマイチはっきりしない、ラクダを連れたオーストラリアの砂漠横断の旅だったが、PCTはきちんとしたルールに基づくもの。そこにはもちろん危険はあるが、参加者はそれぞれの目的意識を持ってそれに挑むわけだから、単純に言えばマラソンに参加するようなもの。マラソンに挑戦して、たとえば4時間以内で完走という目標を果たせば大きな達成感を得られるが、シェリルのように94日もかけて1600キロを踏破すればその達成感はいかばかり・・・?さらに、そのことによって得られた教訓や人生訓はいかばかり・・・?
 前記新聞記事では、深町和代さんは「考えてみれば、日本にもお遍路さんや伊勢参りがある。歩いて旅する文化がありますよね」と語っているが、基本的にはそれと同じでより「WILD」なものが、PCTだ。

<ホントにこんな服装で?こんな装備で?>
 
『奇跡の2000マイル』を観た時は、4頭のラクダを連れて危険な一人旅に挑むロビンのリゾートホテル風の服装(?)に違和感を覚えたが、それは本作も同じ。山道や岩道を歩くのにショートパンツはないだろう。また、少なくとも帽子は不可欠だろう。そう思うのだが、原作者のシェリル・ストレイドはホントにこんな格好で?それともこれは映画向けの一種のサービス?パンフレットを読むとどうもシェリルの服装は原作に近いそうだが、現に旅の途中、怪しげな2人組の男たちに目をつけられたシェリルはかなりの危機的状況に陥ったが、その大半の原因はシェリルのそんな挑発的(?)な服装のためだから、こんな格好はちょっとマズイのでは・・・?
 それはともかく、『奇跡の2000マイル』のロビンは計画的な一人旅だったが、シェリルの場合は突発的な動機で、PCTへの参加は思いつき的なものであることが導入部のストーリー展開を観ているとよくわかる。そもそも、冒頭のシーンで靴を脱いで潰れた足の親指のツメをはがしている時、誤って靴を谷底に落としてしまうというのはあまりにもド素人。しかも、怒りに任せて「ふざけんな、バカ!」と叫びながら、もう一方の靴まで投げ捨てしまうとは・・・。また、リュックを背負って長い旅を続けるには荷物を必要最小限にすべきは当然だが、モーテルの部屋の中でその準備をしているシェリルの姿を観ていると、つい笑えてくる。1人で担ぎきれないほどの重量の荷物を肩にして、どのように歩くの?そりゃ若い女性だから、化粧水や日焼け止めは必需品かもしれないが、1ダースにも及ぶコンドームは必需品?さらに、テントの組み立て方法や燃料の使い方の学習は不可欠だし、食料品と水の必要量の計算くらいはしっかりしなければ・・・。

<なるほどこういうルール!これなら・・・>
 
PCTは必ずしも一人旅である必要はなく、友人同士の参加でもいいらしい。現に本作で、シェリルは男同士でPCTに挑戦しているグレッグ(ケヴィン・ランキン)たちと出会い、心の交流をしている。また、中継地点では「リサプライ(再補給)ボックス」を活用すれば必需品を送ってもらうこともできるし、町に出るにはヒッチハイクもOKらしい。また、「トレイルエンジェル」と呼ばれる宿泊場所の提供や物資の支援など、ハイカーを応援するボランティア活動を行う人々もたくさんいるから、必要に応じてその援助を受けることが可能らしい。また、PCTでは、お気に入りのトレイル上のニックネームをつけるのが習慣だから、若い魅力的な女性であるシェリルが「Queen of the PCT(PCTの女王)」というトレイルネームをつけられる人気者になったのも当然。ひょっとすると、そんな出会いの中から新しい恋も・・・?そんな展開も期待したが、本作でシェリルが1個だけ残したコンドームを使用したお相手は?また、その場所は?
 シェリルは1600キロの旅に94日を費やしているが、実はその途中では8日目に出会ったトラクターで作業中の男フランク(W・アール・ブラウン)の家で、彼の妻から提供されたおいしい食事やシャワーの歓迎を受けている。また、後半ではある町でコンサートに誘ってきた男ジョナサン(ミキール・ハースマン)とは、コンサートで意気投合した後、たちまちベッドインという至福の時も・・・。 

<この女優の生きザマとプロデューサー業に注目!>
 私が女優リース・ウィザースプーンの名前をインプットしたのは、『キューティ・ブロンド』(01年)、『メラニーは行く!』(02年)(『シネマルーム2』168頁参照)、『キューティ・ブロンド ハッピーMAX』(03年)(『シネマル-ム3』287頁参照)だから、もう10年以上も前のこと。当時「ラブコメの女王」と呼ばれた女優メグ・ライアンの後を継いで、彼女はその路線に。そう思っていたが、アカデミー賞、英国アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などを受賞した『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05年)(『シネマルーム9』91頁参照)で彼女は急遽路線を変更。アイドル女優、ラブコメの女王の枠を大きく越えて、何でもこなす演技派女優を目指していった。
 近時私は、『デビルズ・ノット』(13年)(『シネマルーム35』86頁参照)、『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』(14年)、『インヒアレント・ヴァイス』(14年)での彼女の演技に注目している。彼女がすごいのは、2012年にプロデューサーのブルーナ・パパンドレアと共に製作会社パシフィック・スタンダードを設立し、プロデューサー業を精力的に行っていること。ハリウッドを代表する女優アンジェリーナ・ジョリーもブラッド・ピットとの結婚、ガン予防のための乳腺の切除、慈善活動の一環としてカンボジア、エチオピア、ベトナムの子供たちの養子取り、さらに「反日映画ではないか」とささやかれている問題作『アンブロークン』(14年)の製作等々、女優業を大きく越えた活動が注目されているが、リース・ウィザースプーンもそれは同じだ。

<FOXサーチライト・ピクチャーズに注目!>
 ちなみに、本作は、FOXサーチライト・ピクチャーズの提供だが、昨年20周年を迎えた同社は、多くの映画人が最も勢いのある映画会社として名前を挙げるスタジオらしい。パンフレットにある“FOXサーチライト”によると、私が鑑賞した作品だけでも①『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)(『シネマルーム12』414頁参照)、②『JUNO/ジュノ』(07年)(『シネマルーム19』294頁参照)、③『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)(『シネマルーム22』29頁参照)、④『ブラック・スワン』(10年)(『シネマルーム26』22頁参照)、⑤『グランド・ブダペスト・ホテル』(13年)(『シネマルーム33』17頁参照)、⑥『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(14年)(『シネマルーム35』10頁参照)の6本が同社の作品。これらが、ハリウッド大作とは一線を画す低予算作品ながら問題提起作であることは明らかだ。
 「五か条のご誓文」ならぬ、FOXサーチライト・ピクチャーズが「刺激的なスタジオであるための5か条」は、①サーチライト魂を受け継ぐ男女2人の共同社長体制、②作品数は年間最大12本を目安にすること、③手掛ける作品は製作と買い付けが半々、④製作費は1500万ドル以下の低予算が基本、⑤潜在するニッチなマーケットを掘り起こす、の5つというから立派なものだ。シェリル・ストレイドの原作に興味を示したリース・ウィザースプーンが、本作を映画化するについて、そんな製作社と組んだのは当然かもしれない。ちなみに、FOXサーチライト・ピクチャーズと組んで本作を撮り終えたリース・ウィザースプーンは、本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた3ヶ月後に再度タッグを組み、「Pale Blue Dot(原題)」の製作が決まったそうだから、それにも注目!
                                  2015(平成27)年9月2日記