〔津山再開発訴訟〕


1 津山再開発訴訟とは
 
 津山再開発は、平成10(1998)年に制定された中心市街地活性化法に基づく中心市街地活性化モデルとして施行されましたが、その再開発組合は土地バブル崩壊の影響を受けて破綻状態に陥っていました。この再開発組合の解散のために岡山県が提案した解散スキームをめぐり、賛成派と反対派が対立。坂和章平弁護士は賛成派の代理人として、総会訴訟、売買訴訟、滞納訴訟、執行停止申立など数々の訴訟等を担当しました。

2 津山再開発訴訟の経過(主要な出来事)

  昭和61年8月26日  準備組合の設立
  昭和62年5月22日  南新座組合の設立
          7月1日   中央開発の設立
  昭和63年7月2日   商業開発の設立
  平成元年5月31日  アリコベールしんざ竣工
  平成2年7月31日   吹三組合の設立
  平成5年7月6日    南新座組合の解散認可
  平成6年6月15日   アイふきや竣工
        7月12日   中央街区組合の設立
  平成11年3月31日  アルネ津山竣工(4月2日オープン)
  平成13年5月23日  県による検査
         5月31日  県の是正命令
         9月30日  9・30総会(県のスキーム受入れの決議)
        10月15日  10・15総会(賦課金を賦課する決議)
        11月22日   反対派組合員による10・15総会決議無効確認請求訴訟の提起
        12月15日   12・15総会(賦課金の徴収方法の決議)
  平成14年1月21日   反対派組合員による12・15総会決議無効確認請求訴訟の提起
        1月24日   反対派理事による組合破産申立
        2月17日   林氏の理事解任投票(→解任)
        5月10日   組合破産申立の却下決定
        5月16日   破産申立却下決定に対する即時抗告申立
        9月20日   破産申立却下決定に対する即時抗告棄却決定
       12月11日   反対派組合員による滞納処分取消請求訴訟(滞納訴訟)の提起
                 反対派組合員による滞納処分の執行停止申立
  平成15年1月6日   滞納処分の執行停止決定
         1月19日  滞納処分の執行停止決定に対する即時抗告申立
         1月21日  総会訴訟は岡山地方裁判所(本庁)に回付
        11月5日   滞納処分の執行停止決定に対する即時抗告の棄却決定
  平成17年1月11日  総会訴訟、滞納訴訟の一審判決(組合側勝訴)
         1月18日  総会訴訟一審判決、滞納訴訟一審判決に対する控訴申立
         1月26日  事情変更による滞納処分の執行停止決定の取消申立
         2月15日  事情変更による滞納処分の執行停止決定の取消申立の却下決定
         9月1日   総会訴訟、滞納訴訟の控訴審判決(控訴棄却)
         9月15日  総会訴訟控訴審判決、滞納訴訟控訴審判決に対する上告申立
         9月26日  事情変更による滞納処分の執行停止決定の取消申立
        11月9日    事情変更による滞納処分の執行停止決定の取消決定
  平成18年1月26日  吹三組合の解散認可
         2月10日  特定調停の申立
         7月4日   総会訴訟、滞納訴訟の最高裁決定(上告棄却)
  平成19年3月1日   特定調停成立
        11月27日  中央街区組合の解散認可

3 解散スキーム

 津山再開発の3つの街区のうち、事業完成後も工事代金等の債務が弁済できず解散できないままであった2つの街区の組合について、岡山県は、組合解散のための3点を内容とするスキームを提示しました(解散スキーム)。具体的な内容は以下のとおりです。
 ①賦課金(組合)
   組合は、総会決議を経て約17億円の賦課金を組合員に課し、個々の権利床を拠出するこ
  とをもって代物弁済とすることに同意する。
 ②補助金(国・津山市)
   津山市は、街づくり会社による国庫補助事業(リノベーション補助)で組合員が拠出した床を
  取得する計画を策定し、国の補助認可を得ることに全力を上げる(補助金額15億円(国7.5
  億円、市7.5億円))。
 ③債権放棄(熊谷組)
   組合は上記①②による資金に加え、流出した資金を可能な限り回収して債権者に弁済し、
  残余債務の債権放棄を受ける。
   この解散スキームについて、津山再開発の関係者は、当初はとまどいをみせましたが、次
  第に「他に方法がない」として賛成派が増えていきました。一方で、林氏を中心とする反対派
  が解散スキームに強硬に反対したことで両者の溝は深まっていき、法廷闘争にまで発展しま
  した。
   それが、以下の数々の訴訟や破産申立、理事解任投票などです。
                   
4 総会訴訟
(10・15総会決議無効確認請求訴訟/12・15総会決議無効確認請求訴訟)


 平成13(2001)年10月15日に行われた都市再開発法39条に基づく賦課金を組合員に賦課する旨の決議(10・15総会決議)、及び同年12月15日に行われた賦課金の額とその徴収方法についての決議(12・15総会決議)のそれぞれに対する無効確認請求訴訟を合わせて「総会訴訟」と称してします。
 総会訴訟のポイントは、組合がその債務を整理し、解散するために組合員に対して賦課金を課したことが、都市再開発法39条の規定に違反するか否かという点です。

(1)一審判決―完全勝訴
   一審判決は、平成17(2005)年1月11日、組合側完全勝訴の判決を下しました。その要
  点は以下のとおりです。
 ① 都市再開発法39条は、「その事業に要する経費」の総額及び使途について何らの制限を
  しておらず、その立法趣旨に照らしても、総額及び使途について制限を見出すことはできな
  い。
 ② 再開発組合の事業費用は保留床の処分金をもって賄うべきであるが、事業施行の過程で
  訴訟等の費用を支弁する必要が生じたり、保留床が処分できなかった場合には、これらを補
  填するために賦課金を徴収することはやむを得ない。

(2)控訴審判決―控訴棄却
   一審で敗訴した反対派組合員が控訴しましたが、平成17(2005)年9月1日、控訴棄却の
  判決が下されました。
 ① 都市再開発法は、同法39条の「その事業に要する経費」の金額及び内容について何らの
  制限等を設けていない。
 ② 10・15総会決議及び12・15総会決議がされたのは、林らによって再開発組合の定款等
  に定めのない金銭の貸付等が行われた結果、熊谷組に対する請負代金すら払えなくなった
  ためである。
 ③ 再開発事業の公共性をも併せ考えると、熊谷組等に対する支払等に充てるために、再開
  発組合が組合員から賦課金を徴収することは、同法39条の「その事業に要する経費に充て
  るため」という要件に該当する。

(3)上告審判決―上告棄却、上告不受理決定
   控訴審で敗訴した反対派組合員の一部が、組合員から賦課金を徴収することが憲法29条
  の財産権侵害であるとして上告を、また、本件総会決議に法令違反があるとして上告受理申
  立をしましたが、平成18(2006)年7月4日、最高裁は、上告を棄却し、また上告不受理の
  決定を下しました。

5 再開発組合の破産申立

 岡山県の解散スキームに反対し、組合員に賦課金を課すことに反対する林らは、自らが組合の理事の立場にあったことから、平成14(2002)年1月24日、再開発組合の準自己破産の申立を行いました。
 再開発組合の破産申立は、これが全国初の事例です。

(1)第一審―申立却下
   岡山地方裁判所津山支部は、破産申立の却下決定を下しました。その要点は以下のとおり
  です。
  ① 「市街地再開発組合が破産能力を有するか否かについては、見解が分かれるところでは
   あるが、仮に破産能力自体は肯定するとしても」として、再開発組合の破産能力については
   直接判示しなかった。
  ② しかし、ⓐ区画整理組合の解散事由として規定されている「事業の完成の不能」を再開発
   組合の解散事由として規定していないこと(都市再開発法45条)、ⓑ事業の完成が危ぶま
   れた場合には都道府県知事による事業代行の制度が設けられていること(同法112条)、
   ⓒ組合員に対する賦課金の賦課制度を定めていること(同法39条)から、「市街地再開発
   事業の完成に向けた手続が進行している限り、そのことが一つの破産申立障害事由とな
   る」とした。

(2)即時抗告審―棄却
   申立人である林らは、第一審の却下決定に対し即時抗告をしましたが、広島高等裁判所岡
  山支部は、これを棄却する決定をしました。その要点は以下のとおりです。
  ① 再開発組合の清算については、岡山県提案の解散スキームが進行中であり、これにより
   再開発組合の熊谷組以外の債権者に対する債務は消滅し、熊谷組は弁済を受けることが
   できない残債権を放棄することに同意している。
  ② 破産手続は、債務を完済できない場合に、強制的に財産を換価し、総債権者に公平な金
   銭的満足を与えることを目的としているところ、再開発組合に対する全ての債権者は本件ス
   キームによる債務の消滅、債権放棄に同意しているため、破産宣告の必要性に乏しい。
  ③ 以上からすると、「本件申立は申立権の濫用というべき」であり、再開発組合の破産能力
   等を判断するまでもなく、申立は却下を免れない。

6 理事の解任投票

 反対派組合員は、総会訴訟・滞納訴訟・組合の破産申立などで徹底的に抵抗してきましたが、そのリーダーとなっていたのは組合の副理事長である林氏でした。そのため、賛成派理事たちは、反対派のリーダーが組合の副理事長である状況では、組合の運営に支障をきたすと考え、都市再開発法26条に基づき、林氏の解任請求を行うことにしました。
 この解任請求には、①組合員の3分の1以上の署名の収集、②解任投票において総組合員数の過半数が解任に同意すること、という2つの大きな山がありました。
 しかし、賛成派理事たちが、反対派ではない一般組合員一人一人を訪問して説明し理解を求めて奔走したことにより、平成14(2002)年2月3日に行われた署名収集では、組合員の3分の1以上の署名が集まりました。
 そして、「決戦」となる解任投票の期日である同月17日、事前の票読みでは解任の同意が過半数を超えるのは微妙な情勢であったのにもかかわらず、「同意票が55票、不同意票が19票」という大差により、反対派のリーダーは解任されることとなったのです。

7 滞納訴訟(滞納処分取消請求訴訟)と滞納処分執行停止申立事件

 都市再開発法39条が定める賦課金については、同法41条がその滞納処分を定めています。これに基づいて、再開発組合は、反対派組合員に対する滞納処分として、①アルネ津山の権利床の差押えと公売、②権利床の賃料債権の差押え、③反対派組合員の預金債権の差押えを行いました。
 これに対して、反対派組合員が行ったのが滞納訴訟の提起と滞納処分の執行停止の申立です。

(1)執行停止申立事件―滞納処分の執行停止決定
   再開発組合は、平成14(2002)年7月4日に反対組合員の権利床を差押え、平成15(20
  03)年1月8日を公売期日として、差押えした権利床を公売するための手続を進めていまし
  た。
   ところが、岡山地方裁判所は、公売期日の2日前の平成15(2003)年1月6日に、滞納訴
  訟の判決が確定するまで再開発組合による滞納処分の執行を停止する旨の決定を下したの
  です。これにより、組合は、以降滞納処分を執行することができなくなりました。
   これに対し、組合側は即時抗告しましたが、広島高等裁判所岡山支部は、同年11月5日、
  即時抗告を棄却しました。
   しかし、組合はその後も、後述のとおり、滞納訴訟の一審判決後と控訴審判決後に「事情変
  更による滞納処分の執行停止決定の取消申立」を行い、滞納処分を進めるべく新たな手を打
  ちつづけました。
   
(2)滞納訴訟
   本件訴訟における反対派組合員の主張は、10・15総会決議及び12・15総会決議が無効
  であることから、それに基づく滞納処分も違法であるというものでした。そのため、争点は総会
  訴訟と同様、10・15総会決議及び12・15総会決議が無効か否かという点に収束されまし
  た。
   第一審の岡山地方裁判所は、平成17(2005)年1月11日、総会訴訟の第一審と同様の
  理由で、反対派組合員の請求を棄却するとの判決を下しました。そして、控訴審の広島高等
  裁判所岡山支部も、平成17(2005)年9月1日、反対派組合員の控訴を棄却するとの判決
  を、上告審の最高裁判所も、平成18(2006)年7月4日、上告棄却の判決及び上告不受理
  の決定を下しました。

8 事情変更による滞納処分執行停止決定の取消申立

 平成15(2003)年1月6日に滞納処分の執行停止決定が下されて以来、組合は、滞納処分を執行することができなくなっていました。
 そこで、滞納処分の執行停止処分を取り消すべく、組合は、滞納訴訟の一審判決後と控訴審判決後の2回にわたって、行政事件訴訟法26条に基づき、事情変更による滞納処分の執行停止決定の取消を申し立てました。

(1)滞納訴訟第一審判決後―申立棄却
   平成17(2005)年1月11日に滞納訴訟の一審判決が下され、反対派組合員の請求が棄
  却されたことから、組合は、同年1月26日、事情変更による滞納処分の執行停止決定の取
  消を申し立てました。
   これに対し、岡山地方裁判所は、平成17(2005)年2月15日、組合の申立棄却の決定を
  下しました。その理由は以下のとおりです。
 ① 滞納訴訟の一審判決で反対派組合員の請求を棄却する判決が下されているとしても、請
  求の当否の判断のために、控訴審において新たに提出される資料をすべて見通すことができ
  ない以上、第一審判決が控訴審で覆される可能性が皆無であると断言できない。
 ② 第一審の敗訴判決が覆される余地がないまでに「本案について理由がないとみえるとき」
  (行政事件訴訟法25条4項)に該当するまでの事情がない限りは、第一審が反対派組合員
  の敗訴判決を下したというだけで事情変更があったとはいえない。

(2)滞納訴訟控訴審判決後―執行停止決定の取消決定
   滞納訴訟の控訴審判決後、上告せずに控訴審判決が確定した反対派組合員については、
  執行停止決定は効力を失い、組合による滞納処分が可能となりました。しかし、反対派組合
  員のうち4名については最高裁判所に上告したため、組合は、再度事情変更による滞納処分
  の執行停止決定の取消を申し立てました。
   これに対し、広島高等裁判所岡山支部は、平成17(2005)年11月9日、滞納訴訟の控訴
  審判決で反対派組合員の請求を棄却する判決が下されたことで、「本案について理由がない
  とみえるときに該当するに至った」として、滞納処分執行停止決定を取り消すとの決定を下し
  ました。
   これにより、組合はようやく、滞納処分を進めることが可能となったのです。

9 特定調停の申立

 平成18(2006)年2月10日、組合は、熊谷組の債権を承継したニューリアルプロパティ株式会社(NRP)を相手方とする特定調停を申し立てました。
 この調停において、NRPは、第1回期日、第2回期日ともに、組合ができるだけ債権を回収し、不足分については津山市の行政措置をとればいいだけであるという形式論を主張するばかりでした。組合がNRPに対して債務を弁済する義務を負っているのは承知したうえで、「ない袖は振れない」という状況の中どのように組合を解散させるか協議したい、という坂和章平弁護士の思いは届かなかったのです。
 そこで、坂和章平弁護士と街づくり会社の代理人である松嶋英機弁護士、柴原多弁護士は、組合理事らは高齢であり体力的にも限界に近く、会社の経営状況も逼迫していること、NRPとしても、津山再開発の関係者の体力、気力があるうちにできる限り債権を回収することがもっとも経済合理性の高い処理であることなど、「開き直り」とも言えるようなぎりぎりの説得を行いました。これにより、第2回期日後の平成18(2006)年6月12日、NRPが方針転換し、組合と街づくり会社との間では調停による解決をするとの結論に至ったのです。
 そして、第6回期日の平成19(2007)年3月1日、①組合が平成19年3月までに回収した債権を原資とする現金を支払い、②組合が有する債権をNRPに譲渡することで債務を一部弁済し、③残余の債務を免除してもらうという内容で、ようやく調停が成立しました。

10 再開発組合の解散認可

 以上のように特定調停が成立し、NRPが残余債権の約15億円を放棄したことで、再開発組合は、平成11(1999)年4月のアルネ津山のオープンから8年が経過した平成19(2007)年4月より、都市再開発法に基づく解散・清算の手続に入ることができました。
 これにより、同年11月27日、組合の解散が認可され、津山再開発をめぐる長い闘いがようやく終わりを告げました。

11 判例掲載雑誌

(1)総会訴訟
  ・第一審判決:判例タイムズ1205号172頁
(2)再開発組合の破産申立
  ・即時抗告審:判例時報1905号90頁

  ・・・『津山再開発奮闘記-実践する弁護士の視点から』
     (文芸社、2008(平成20)年4月15日発行)
                                本紹介